この映画は何度見ても残らない映画だ、悪いというわけではない、ビリー・ワイルダー監督、お得意のロマンティック・コメディであり、映画のあちらこちらに監督のエスプリが効いている、ユーモアも十分ある、主役のオードリー・ヘップバーンは相変わらず、美しくかわいらしい、確かに妖精のよう、もう一人の主役ゲーリー・クーパーも大富豪のプレイボーイ役は板についている感じ、要所、要所で流れる音楽「魅惑のワルツ」もいい、が、しかし、どうもしっくりこない、何かやっぱり、映画の中に入れない。何故か?
まず、冒頭の、パリではみんなが恋をする、と言った次から次へとパリの恋人たちを映し出していくシーン、これはいらないと思う、少し、陳腐な感じがする、せっかく悪くない映画なのに、冒頭、映画のイメージを損なう感じ、筆者は、まずオープニングでつまずいた。続いて、妖精のようなオードリーが現れる、オードリーはアリアーヌという私立探偵の娘という役どころ、音楽学院の学生という設定で、後のストーリー展開を考えると、少なくとも大学生くらいの年齢ではあろうと考える、が、アリアーヌの言っていること、アリアーヌの行動、リッツホテルに、ゲーリー・クーパー演じる大富豪に会いに行くことになる顛末など、筆者には、日本の高校生、下手すると、中学生くらいの少女に思えてしまうのだ、いくらアリアーヌと大富豪が年の差カップルという設定と言っても、幼すぎるイメージ。それが、後の、ストーリー展開ともなる、タイトルの ”情事“ と馴染まない、しっくりこない‥‥結局これが原因か?
とはいえ、監督はビリー・ワイルダーである、先にも書いたように監督のエスプリはたっぷり味わえる、しかも、なかなかいい、ステキなエスプリであったりする。アリアーヌの父親の私立探偵には冒頭に依頼人がいることが分かるが、その依頼人との後のかかわり、この依頼人のことなど、ストーリの展開とともに見ているほうはすっかり忘れてしまうんだけれどね、そこが、ポイントか、うまい、また、ヘアスタイルを変えて帽子をかぶるだけでのアリアーヌの見事な変身、最初からこのイメージならよかったと思うんだけれど、そして、情事の際に必ず登場する楽団も面白くていい、この楽団の演奏する「魅惑のワルツ」の使い方であるとか‥‥といった具合に、オシャレで粋な演出はさすがなんだけれどな。
映画はパリが舞台なのでオードリー演じるアリアーヌはパリ娘ということになる、オードリーにはパリを舞台にした映画が多いね、フレッド・アステアと共演したミュージカル「パリの恋人」、ウィリアム・ホールデンと共演の「パリで一緒に」、ハンフリー・ボガードと共演した「麗しのサブリナ」ではパリにパテシエ修行に行くことになる、そしてこの「昼下がりの情事」、そして、さらに、ヘップバーンはパリの有名デザイナー、ジバンシーのドレスを映画の中で着こなし‥‥など、これほどパリが似合うアメリカの女優はほかにいないかもしれない。
しかし、こう書いてみると、オードリー・ヘップバーンはそうそうたる男優たちと共演しているなあ、と思ってしまう、だって、フレッド・アスティア、ウィリアム・ホールデン、ハンフリー・ボガード、そして、ゲーリー・クーパー、ここに書いていない映画でも共演者を思いっきり挙げてみると、グレゴリー・ペック、ヘンリー・フォンダ、アンソニー・パーキンス、バート・ランカスターにケーリー・グラント、ピーター・オトゥール、ショーン・コネリー…などなど、当時、活躍している男優たちが勢ぞろい、という感じ、映画好きの人はこの中に何人知っている有名俳優がいるかな、 こうしてみると、オードリーの相手役、というか、共演者には当時の人気俳優がずいぶん顔をそろえていた、と思う、オードリー、俳優の間でも人気あったのかな? …妖精だしね!
そんな ’妖精‘ のオードリーが主役の映画「昼下がりの情事」は、オードリーが妖精すぎて、’情事‘ っていうイメージドロドロの言葉とは相いれない、っていうところがこの映画の敗北であった、 (オリジナルタイトルでは “Love” だけれどね) 二人の関係は確かに ’情事’ である、と考える、映画をよく見ていると察することができる。が、オードリーの美しく、可愛く、清純な顔がスクリーンに映し出されると、二人の恋愛ごっこの映画と思えてしまう、ということで、最初に戻るのだが、どうも映画の世界に入り込めない、しっくりこない感がラストまで付きまとう。
ということで、ワイルダー、ヘップバーン、クーパーと大御所3人が頑張っているステキな映画なのだが、 「昼下がりの情事」は 悪くはないけれど残念映画、としたい。