Kororon 映画について語るBlog

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映画  Mr.ホームズ 名探偵最後の事件  ビル・コンドン  監督  :悪くないけれど残念な映画

Mr.ホームズ 名探偵最後の事件(字幕版)

 

 

イギリスの作家、コナン・ドイルが産んだ、世界的人気のある、有名な名探偵シャーロック・ホームズは第一線から退いた後には、イギリス、サセックス州で養蜂をしながら隠居生活を送っていることになっている。サセックス州といっても、あまりなじみのない土地かもしれないが、イギリス、ロンドン、の南に位置して趣のある海辺の風景が魅力の土地のようだ、劇中でもホームズが養蜂を営んでいる農場のすぐそばには海岸が広がっている、という設定であり、家政婦の息子の少年と一緒に海に泳ぎに行くシーンなどもある。静かで素朴な土地のようで、ホームズのような有名人が引退して、静かに暮らすにはうってつけの土地、と言えるのかもしれない。

 

映画「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」は93歳のホームズが、このサセックスの農場で家政婦マンロー婦人とその息子ロジャーと3人で暮らす様子を描いている。名探偵も93歳である、一緒に数々の冒険を共にした盟友ワトソン博士も兄マイクロフトとハドソン夫人など、ホームズを取り巻くおなじみの人々はもういない、老齢のホームズただ一人が残された、という設定である。さらに、あの剃刀のように鋭い頭脳も、寄る年波には勝てずに、今は物忘れもひどくなり、相手の名前すら覚えられない、忘れてしまう、ということで、ワイシャツのカフスに、相手の名前を記して、そっと盗み見して、急場をしのぐ、なんてことも珍しくはないのである。

 

今回のこの最後の事件というのも、ホームズが引退するきっかけとなった30年前の事件の結末が、ワトソン博士が物語として書き上げたものと、自分自身が記憶している結末と違う、と気づいたために、実際はどうだったか、事件を思い出しで自分の手で事件の顛末を書き記すといことなのだ。が、すすむ認知症のために、事件の細部を思い出せない、それで悩む、イラつく、体も弱る…といいところなく、死期がまじかに迫っている様子、昔の面影も全く見ることができない、哀れな老ホームズが描かれることとなる。現役の時のホームズとのこの映画の老ホームズのギャップは案外すさまじく、ホームズのいちファンとしては、ここまで、老いて弱ってしまったホームズをこの監督は描くのか、と、監督の徹底さにある意味、あっぱれ、と言いたくなるのだが、ファンとしてはやっぱり見たくはないホームズの姿なのである。

 

一方、家政婦のマンロー婦人はこの偏屈なホームズ老人には閉口するばかりである、一日も早くもっと都会のいい条件の仕事を見つけたいと望んでおり、実際に職探しに余念がない、息子のロジャーはどうかというと、親に似ず賢い、トンビが鷹を生むという言葉があるが、まさにそのような設定で、ロジャー少年は往年のホームズの鋭さを老ホームズの中に見ており、次第に老ホームズと仲良くなっていく、母親に内緒で、年の離れた ”親友“ のような関係を築いてゆくのである、ホームズは少年ロジャーのことを ”私の宝“ というまでになる。この二人の交流は観ていて心地よい気持ちにさせられる、筆者は好きな、いいシーンなのである。

 

また、ホームズは自分の記憶力維持のために “山椒” にたよる、”山椒“ を手に入れるために、老齢にもかかわらずわざわざ日本へ出向く、当然映画では日本の町の描写、日本人の描写、日本の家庭の描写…等が、登場する、まあ、格別不自然とまではいかないが、何故かこの監督は ”山椒“ を手に入れることができるのは広島であるとして、原爆で焼け野原になった土地を公園、と称し、その焼け野原で ”山椒“ をみつける。ここら辺の展開は全くよくわからなかった、何故 ”山椒“ なのか、何故、広島と原爆がでてくるのか、日本人とホームズが絡むエピソードを挿入したわけは謎だ。まあ、ただ一つ思い当たるとしたら、ホームズは ”バリツ“ という東洋の格闘技の技を体得しており、この ”バリツ“ で宿敵モリアーティ教授をやっつけるのであるため、東洋の技 ”バリツ“ と日本という結びつきができたのではないか、と推測する、が、この日本との絡みのエピソード、あまり出来もよくないと感じるし、なくてもよかった、と筆者は思う。

 

映画「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」は、サセックスの美しい映像、年老いて昔の面影全くなしというホームズを描くという着想、ロジャー少年との心安らぐ交流‥‥と、悪くない場面もたくさんあるのだが ”名探偵最後の事件“ というわりには、この最後の事件が観ている筆者には、少々物足りなかった、まあ、映画全体を包む、のどかで静かな優しい雰囲気にはぴったりと合っているのではあるが。そして、今も書いたように、ないほうがよかった、と思われる日本と日本人との絡みなどもあり、筆者はホームズのファンではあるのだが、この映画、悪くないけれど残念な映画、としたい。