この映画は長い映画だ、長いということをまず覚悟して。この映画は歴史ものというか、実在した王の生涯を描いた作品だ、全体に暗いトーン、狂気はあるが笑いはない、耽美はあるが健全さはない、ヘルムート・バーガーとロミー・シュナイダーは美しい、いくつも映画に登場する宮殿は豪奢だ、目もくらむような素晴らしい宮殿と病んだ精神、明と暗、美と醜、様々な対比を見せながら、悲劇へとストーリーは向かっていく。
この映画の見どころのひとつは、映画にでてくる実際にルードヴィッヒが建てた3つの城、ノイシュヴァンシュタイン城、リンダーホフ城、ヘレンキームゼー城。ノイシュバンシュタイン城は ”白鳥城“ というだけあって真っ白な城が優美な白鳥のごとく小高い丘の上にそびえている、だから歩いていくのは大変だ、坂道を登って城を目指さなくてはならない。が、登り切った頂上にそびえる、美しいノイシュヴァンシュタイン城を見た時は、坂道を登ってきた疲れも忘れてただただ感動。映画では、スクリーン上で城の内部までも見ることができる、城の中に鍾乳洞まで作って、人口の湖に船を浮かべて遊んでもいる、 “美と狂気”、ルードヴィッヒの生涯に興味のない人でも、ノイシュヴァンシュタイン城の映像を見るだけでも、この映画は観た方がいい。
リンダーホフ城も素晴らしい、が、私は三つの城の中で一番印象が薄い、何故かな、ノイシュヴァンシュタイン城やヘレンキームゼー城に比べても、何ら遜色なく、素晴らしい城、素晴らしく美しい城だったけれど、記憶にとどまるとっかかりというか、引っかかるポイントに欠けていたのか。映画でも、リンダ―ホフ城の映し出されたシーンを鮮明に思い出せない、もう一度映画を観て確かめよう。見る価値、訪れる価値はもちろん十分な城。映画では見どころシーンの一つの城であることは確か。
三つ目のヘレンキームゼー城、この城はまたすごい、何がすごいかって、まず、この城はキーム湖と呼ばれる湖の真ん中に立っている、それだけでも、建設費かかっているように思える。次に、城に到着する前に、庭園にある噴水に目を奪われる、高く上がる水のダンスを十分に堪能した後、いよいよ城へ。ヘレンキームゼー城で素晴らしいのは何といっても鏡の回廊。ルイ14世に憧れていたルードヴィッヒがヴェルサイユ宮殿をまねて作ったといわれる、ヴェルサイユ宮殿の鏡の回廊よりも大きかった。贅沢だね、だが、もちろん素晴らしい、この鏡の回廊は映画にも登場する。
城の話ばっかり書いてきたが、大げさに言うと ”城“ がこの映画の見どころの一つといっても言い過ぎではないと思える。。ただ、もちろん城ばかりではなく、他にもこの映画の見どころはある、例えば ’馬車‘ とか。又、映画のストーリーとは関係ないんですか、と言われるかもしれないが、この映画にでてくる馬車、実に豪華で素晴らしい。ドイツには博物館があって映画で使われた馬車が展示してある、実物の馬車を見ると圧倒される、馬車に注目。
では、ストーリーは? ストーリーは狂気に満ちている。贅を尽くした3っつの城の建設もそうであるが、オーストリア皇女エリザベートを慕うルードヴィッヒ。相手は妃、いくら慕っても報われない関係もルードヴィッヒを狂気へ導く要因の一つか。ワーグナーとの関係、ワーグナーに利用されるルードヴィッヒ、ルードヴィッヒが狂気へと落ちてゆく過程、ストーリーとしても、みごたえがある。
国民のことを全く考えないで城に、ワーグナーに贅を尽くしたルードヴィッヒ、同じく国民のことを全く考えないで ”パンがなければケーキを食べればいいじゃない“ と言い放ったマリー・アントワネット、どちらも同じ絶対王制の時代を生きた王族で、両者ともに自国の民のことを顧みなかっただけあって、前者は狂気に翻弄されて自殺、後者は断頭台へと送られる、どちらも最後は悲惨であった。
ヴィスコンティの描いた狂気と耽美の世界、この映画でそんな世界をのぞいてみてはいかがでしょうか?