Kororon 映画について語るBlog

映画を語りつくす blog ☆ いい映画も、残念な映画も、好きな映画に、無理(?) な映画も、時に、ドラマも

映画  タクシー運転手  約束は海を越えて    ソン・ガンホ  主演

タクシー運転手 ~約束は海を越えて~(字幕版)

 

ミャンマーで国軍によるクーデターが起こり、一夜にして軍事政権が誕生し、ミャンマーの市民はそれに反対し、連日のようにデモが行われ、とうとう、軍は市民に実弾の入った銃口を向け、14名という死者が出た。これ以上の犠牲者が出ないことを祈るばかりであるが、軍事政権に反対するデモや集会が続けば、軍の対応は次第にエスカレートしていき、市民にさらなる犠牲者が出るのではないか、という悪い想像をしてしまう、世界の世論がそうなることを阻止できるほどに、強くなることを願うばかり。

 

ミャンマーよりもっと以前には、イギリスから中国へ返還された香港は一国二制度のもとに、返還される以前とほぼ変わらぬ自由を謳歌できる都市であった、が、突然の中国の政策転換、その自由を奪われることとなる、自由を奪われまいとする市民の抵抗は今なお続き、大勢の逮捕者も出し、香港を脱出してイギリスに移住しようという沢山の香港市民を生み出し、香港を守ろうという香港市民の抵抗もむなしく、現在の香港には昔の香港の面影はない。香港で起こっていることは、ニュースによって世界中の人々の知るところとなっているが、香港の現実を変えるに十分に力強い、世界の世論とはなっていないのが現状か。

 

そして、映画「タクシー運転手 約束は海を越えて」は、ミャンマーや香港よりも以前に、クーデターに端を発し、韓国の光州において軍と市民との間に勃発した武装闘争に巻き込まれていくタクシー運転手を描いた。平凡なタクシー運転手がこの武装闘争に巻き込まれていくきっかけは、何の政治的意図もない、他愛のないことであり、当初はこのタクシー運転手にとって光州の武装闘争は他人事であり、一人の外国人を光州に送り届ける仕事によって手に入る、高額な報酬が目当てであった。

 

ところが、ソン・ガンホ演じるタクシー運転手キム・マンソプは、ドイツ人記者ピーターを光州に送り届けたことにより、光州で軍に抵抗する様々な市民と出会う、軍による市民への暴虐、残虐なふるまいを目撃する、ドイツ人記者ピーターの光州での出来事を世界に知らしめるという使命感に共感する…などの様々な経験をして、自らも光州事件に深く、深くかかわっていくことになる…という展開、観客はタクシー運転手、キム・マンソプの目を通して、光州における軍の市民に対する残忍さ、非情さを知ることになる、映画のこのあたりは実に見ごたえがある。

 

映画の見どころは様々あるのだが、一つ上げるとするならば、タクシー運転手キム・マンソプとドイツ人記者ピーターが光州脱出を図ろうとするときに、光州のタクシー運転手たちが、自分たちの命とタクシーをかけて、二人の脱出を手助けする場面か、思わず手に汗握るシーン。また、この映画は実話をもとにして作られており、ラストシーンも実話に沿った形の展開となる、軍と市民の衝突による残虐さや、二人の脱出の緊迫感から解放された後の、しみじみ余韻の残るラストとなる。

 

この映画のポイントは、光州事件の実態を描いているところと、ドイツ人記者ピーターが光州の事実を世界の人々に知らせようと、彼もまた命がけで努力しているところでなないだろうか。権力が市民を弾圧している事実を世界に知らせる、権力による市民の弾圧だけでなく、今、世界で起こっている様々な具合の悪いことを世界の人々が知る、人間は何事もそれを知らなければ、次なる行動を起こせないではないか、弾圧も、汚職も、地球温暖化もコロナ対策も…。

 

そういったことを気付かせてくれる、という点においてもこの映画は、一見の価値があり、タクシー運転手のキム・マンソプが見事ミッションを果たす結末に、張本さんではないが、あっぱれ!をあげたいと思う。