最初から、オープニングがいい、なんだか人生にくたびれた男二人、自転車に乗ってよろよろ走っているかと思うと、パッとフラッシュバックして、シンジのこぐ自転車の荷台にまたがっているマサルの着ている真っ赤なシャツがいきなり視界に飛び込んでくる。久石譲の音楽も急にテンポよくなり、シンジの走らせる自転車のスピードもアップして風切るように走り、映画のタイトルが現れる‥‥オープニングから素敵だ、素晴らしい。と、この時点で早くも映画の世界に吸い込まれてしまうような感覚。グレーから炎、情熱のレッドへ、北野監督が使った色彩のマジック。
その後のシーンで、二人が学校に遅刻して授業をさぼっていることが分かる。この二人、いわゆる落ちこぼれであることが分かる。同級生は受験勉強に余念がなく、映画が展開していくにしたがって、ますます、この二人の落ちこぼれぶり、というか、不良ぶり、みたいなものが分かってくる、そして、この二人はこの映画の主人公である。
どの映画でも、主人公のまわりには主人公に絡んでストーリを作っていく登場人物がいる。この二人のために配置された登場人物というのも、なかなか主人公二人に負けず劣らずの人物たちである。この映画は、青春映画と言われている、青春映画、と聞いてたいてい思い描くのは、明るくて、溌剌としていて、甘い恋の話があったり、スポーツに打ち込む姿があったり、悩みや挫折があってもあくまで、“明るい” というイメージで貫かれていく。そんなイメージが一般的ではないか。筆者の独断かもしれないが、そんな風に思う。
この二人も、それぞれ道は違えど、それぞれ自分が選択した道に打ち込んでいき、二人ともいい線までいくことになる。たとえ、マサルの道がヤクザの世界での出世であっても。ヤクザの世界での出世に青春をかけさせる、というのも北野監督ならではの物語展開ではないか。監督の発想の奇天烈さにここではあっぱれ、となる。結局、マサルは極道の掟に従えず制裁を受けてヤクザ世界での出世コースから脱落する。一方、ボクシングの道に打ち込んでいたシンジもいい線行くのだが、いかんせん、ボクシングは強いのに、メンタルが弱かった。後輩を堕落させるようなアドバイスしかくれない、先輩ボクサーの甘言によって、チャンピオンへの出世コースからあえなく脱落する。
↑ アウトレイジ
並行して描かれる、マサルとシンジの同級生、ヒロシもせっかく就職した会社を辞めて、タクシー運転手に転職するのだが、結局うまくいかずに、事故を起こしてしまう。主人公たち、主人公を取り巻く人物たち、映画を観ていても救いがない。そんな中にあって、漫才師を目指した同級生二人、彼らだけは成功を手に入れる、何故かな、と考えた時、やっぱり、自分が漫才師ビートたけしとして成功を手に入れたことに思い入れがあったのかな、と考える。
主人公のマサルとシンジは、こうして夢破れ挫折して、再会し、オープニングの自転車のシーンへとつながる。どこに行くかと思えば、卒業した高校の校庭であり、映画のタイトルの ”Kids Return (キッズ・リターン)” となる。主人公二人まだまだ ”Kids" ということでもあるのか。久しぶりに懐かしい友人に出会い、共に過ごした学び舎に引き寄せられるように学校へ行く。やはり学生時代は良かった、青春時代は良かった、学校で授業さぼっても、煙草吸っても酒飲んでも先生に怒られるだけで済んでいた。カツアゲして、警察に補導されたとしても、親は駆けつけてくれなくても先生が駆けつけてくれたかもしれない。
ラストは、ノスタルジックにセンチメンタルに昔を懐かしむ挫折した男二人。ラストのマサルの希望に満ちたセリフは、そんな、懐かしくも、やはり、”美しい“ 青春時代に思いをはせ、くたびれたような彼らの心に再び小さな炎が燃え上がった結果、口からついて出たセリフなのか。オープニングのマサルの真っ赤なシャツは、もちろん、高校生の時のマサルやシンジの情熱や心意気の ”レッド” であったろう。と同時に、挫折して再び青春時代を過ごした場所に戻ってきたマサルとシンジの心に再び燃え上がった ”炎” とまではいかなくても ”種火“ くらいは現わしているのかもしれない。だから、マサルの口からあのようなセリがでてきたか。
「Kids Return」好きな映画だ。結局、この映画の何がそんなにいいのか、と言うならば、主人公二人の学校での傍若無人ぶり、校則、先生の言うこと無視してやりたい放題やっているところが痛快、二人が選んだ極道界とボクシング界の対比の面白さ、それぞれの世界で頑張る二人の懸命さ。マサルの場合は極道界と言えどもおもしろい、いや、そんな常識とは正反対の世界で一生懸命だからかえっておもしろいのか。キャスティングも音楽もいい‥‥‥ということで、いいことずくしで、北野監督の映画の中では大好きな映画である。一番といってもいいかもしれない、他にもまだお気に入りの北野映画あるけれどね。
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