Kororon 映画について語るBlog

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映画  ベニスに死す     ルキノ・ヴィスコンティ 監督

ベニスに死す (字幕版)

 

水の都ベニス、ベニスの中心部であるサン・マルコ広場、回廊のある建物が周りを囲み、石畳、とても美しい広場であるが、最近この広場についてのニュースで思い出されるのは、水害で広場が水浸しになってしまい、文字通り、‘水の都’ ベニスになってしまった、というニュースだ。この映画は、そんなイタリアの美しい都市ベニスの近くにあるリド島という島を舞台にした、わりと、せつなくも美しき映画である。

 

まず、監督ヴィスコンティがベニスの美しい海を見せてくれる、実際は、リド島なのだが、とにかく、美しき映像を見せられて、心ははや水の都へ飛んでいく心持、そこへ老作曲家が心惹かれる美少年、ビョルン・アンドレセン演じるタージオ少年が登場する、そして、老作曲家だけではなく見ている観客もこのタージオ少年を演じているビョルン・アンドレセンの美貌に目を奪われることとなる、華奢で、美しく、小悪魔的なあぶなさを秘めるタージオ役のビョルン君は映画をさらっていく。

 

老作曲家はタージオ少年の美しさの虜になってしまう、なので、最後までタージオ少年のそばにとどまり、その美を見届けようとする、この老作曲家は何故にそれほどまでにタージオ少年の虜となってしまったのか、タージオ少年の美しさだけで、ここまで一介の少年に心を奪われる、なんていうことはどうなのだろうか? 老作曲家のタージオ少年への肩入れの仕方が尋常ではないと感じた筆者は、はた、と考えてしまった。

 

筆者は同じような老人を知っている、えっ、だれを? この老作曲家と同じように若さと美に執着した、ゲーテ著「ファウスト」のファウスト博士を、ファウスト博士は年老いていて、学問に身をささげた人生を送ってきた、それはそれとしていいのだが、そのために、自分が人生の美しさを犠牲にしてしまったことが、悔やまれてならない、そこで、悪魔メフィストと契約を交わして、再び若返って人生を謳歌し、一度は失った快楽の限りを尽くす、「時よとまれ、お前は美しい」というセリフが口をついて出るまで。

 

「ベニスに死す」の老作曲家もファウスト博士と同じ心境になったのかな、ベニスの海に美しく輝く、生命力に満ち溢れたタージオ少年に出会い、作曲に捧げた人生で犠牲にしてきた、青春と人生の快楽を今一度取り戻せたらと願ったのか、願うが、老作曲家の場合は悪魔が出てきて、ファウストのように若返らせてくれるわけでもない、ファウスト博士のようにはいかない、できることといえばただ、美しく若きタージオ少年をめでて、思い、自分を慰めることだけか。そして、めでて、そばにいるだけだったが、老作曲家の場合は、映画のラストに「時よとまれ、お前は美しい」となる、老作曲家は最後、笑ったのだから。

 

似たような人物がもう一人いた、そうだ、オスカー・ワイルド著「ドリアン・グレイの肖像」のドリアン君だ。彼も悪魔と取引したのだろう、ほぼ永遠の若さを手に入れて悪徳の限りを尽くしていたではないか。が、「ベニスに死す」の老作曲家やファウスト博士と違うところは、二人とも形こそ違え、最後は “時は美しい” となって、まあ、或る意味、満足しながら最後を迎えたが、ドリアン君の場合はラストはすこしばかり、陰惨、悲惨だった。

 

ベニスに死す (集英社文庫)

 

さて、悪魔と取引できなかった「ベニスに死す」の老作曲家に起こっている出来事は、同じフィクションの世界とは言え、ファウスト博士やドリアン・グレイよりも現実に近い。老いた人間が自分の人生を後悔して、青春の日を再び、と熱望しても、普通可能なことは老作曲家のようなことしかないんだよ、と言いたかったのか。「ベニスに死す」の原作者、トーマス・マンゲーテの「ファウスト」の世界を、冷酷非情に、現実の世界に置き換えた。ヴィスコンティはそのトーマス・マンの世界をタージオ美少年に具現し、リド島の美しい海とともに映像化した、ヴィスコンティの世界、ここにありき、という感じ。

 

そんな、はかなくも熱烈であるが、悲しい老作曲家の心情を感じつつ、美しいタージオ少年と海に酔いしれる、というところにこの映画のいいところがあるようだ。まあ、人生、後悔しないように生きていくのが一番であり、’非情、冷酷‘ 、な映画とはいえ、この老作曲家みたいなお年寄りって、もしかしたら、少なくないのかもしれない。

 

作家、トーマス・マン自身も実際にベニス旅行中にタージオのような美少年に夢中になって、その経験を小説にした、ということだが、筆者は映画「ベニスに死す」、こんなふうに考えて、この映画はディープに見ることのできるいい映画とした、一度ぜひどうぞ、そしてあなたの思ったことは?

 

 

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ファウスト(一)(新潮文庫)

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