Kororon 映画について語るBlog

映画を語りつくす blog ☆ いい映画も、残念な映画も、好きな映画に、無理(?) な映画も、時に、ドラマも

グラン・トリノ   クリント・イーストウッド 監督/ 主演

グラン・トリノ (字幕版)

 

 

グラン・トリノというのは主人公、クリント・イーストウッド扮する、妻に先立たれ、一人暮らしの元軍人で頑固な老人の愛車でありこのグラン・トリノによって、この頑固な退役軍人とモン族の少年が出会うこととなり、グラン・トリノのラストを迎えることとなる。クリント・イーストウッド監督、主演のこの映画はテーマがあるとしたら、そのテーマも悪くなく、淡々と物語は進んでいき、地味で落ち着いてはいるが、いい感じでストーリーは展開していく。

 

この老人のお隣さんに、モン族の一家が引っ越してくる、ポーランド系のガチガチのアメリカ人と新参者アジア系住民の馬が合うはずはなく、最初はお互いに偏見をもって、近所づきあいもままならない、が、いろいろな事件もあって、次第に打ち解け、自然なお隣通しの関係へと発展してゆく、その事件の一つが、モン族の少年タオによる愛車グラン・トリノ窃盗未遂事件。老人と少年の家族の間はギクシャクしている、一方、タオの姉のスーも絡んで、老人と少年、老人とモン族一家は気持ちを近づけていく、曰く ”遠くの親類より近くの他人“。

 

このタオ少年には一つ問題があり、同じモン族の不良少年たちに付きまとわれている、タオ少年はもちろん彼らとかかわりたくない、が、不良少年たちのほうでタオ少年をほっておいてはくれない、このことが後々大事件に発展して、ラストを迎えることになる。興味深かったのは、タオ少年につきまとって、ちょっかい出す不良たちが、タオ少年と同じモン族であることだ。イーストウッドは黒人の不良少年たちも登場させている、が、彼らがモン族に絡んでくるのは一度だけで、その後は映画からは姿を消す。異国の地に住みながら、同じ種族で対立しあって不幸を呼ぶとはどういうことか、案外悲しい事態と言えなくもない。

 

タオ少年は弱い、弱いからグラン・トリノの窃盗未遂事件を起こすなんて羽目に陥る、頑固老人の下で少しづつ鍛えられていきながら、二人の間に年齢が離れているにもかかわらず、友情らしき感情がはぐくまれていく。

こんな、ごく平凡なアメリカの片田舎の町の日常の中でも、イーストウッドは冷酷な運命が住人達をさらに大きな不幸に陥れるという、剃刀のようなリアリティを観客に見せつけるのを忘れない、観客はイーストウッドの振り下ろしたカミソリに切り付けられ、運命の冷酷さに心も暗く沈む、このあたりは、同監督の「ミリオンダラーベイビー」を思い出させる。

      

ミリオンダラー・ベイビー (字幕版)

イーストウッドの用意した一撃はこれだけでは終わらす、ラストに向けてもう一度観客に向けて矢が放たれる、この矢も結構深く観客の心に突き刺さると思う、映画は気持ちハッピーエンドかと思わせるが、イーストウッドの放った矢が思ったより深く突き刺さるため観客は、ここでも、素直にハッピーにはなれない。そんなイーストウッド監督のカミソリや矢がアメリカの片田舎の町を後半は滅多切りにする展開だが、そんな現実直視の非情さがイーストウッド監督および彼の作品が ’いい映画‘ であるとか ’どれも秀作‘であるとか、’名監督’ とか言われる所以ではないかと思う、実際、クリント・イーストウッドが監督した映画はどれも秀作ぞろい。

 

また、諸問題だけでなくて当時の社会事情もちらと顔を出す、この頑固老人は日本車のTOYOTAに乗っている息子が気に入らない、何せ、自分の車は大きくて燃費も悪そうではあるが、お気に入りのアメ車グラン・トリノであるからね、ここらへんでもさりげなく アジアvs.アメリカ 感を出している。

ということで、ニヒルに冷酷、非情さをもって世の中を鋭く切っていくクリント・イーストウッドの映画を今宵は堪能してみてはいかがでしょうか、アメリカの抱えている数々の諸問題のうちの一つを描いた名作、ぜひ、どうぞ。

 

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