久しぶりに本棚の奥から引っ張り出してきて、アガサ・クリスティーの「ポワロの事件簿2」創元推理文の中の一篇、『チョコレートの箱』を読みました。
アガサ・クリスティーをご存じですか?イギリスの女性推理作家、非常にたくさんの推理小説を書き、映画化され、TVドラマにもなって‥‥と有名ですから、どこかで聞いたことがあると思います。
私は中学生の時からクリスティーを読み始めて今でもファンです。中学生で最初は翻訳を読んでいました、英語が好きだったのでだんだんとペーパーバックを読むようになりました、海外に旅行するときなどは、飛行機の中で暇つぶしに読もうと思って、よく、クリスティーのペーパーバックを持って行ったものです。
「チョコレートの箱」は短編なのであっという間に読めてしまう物語。でも、さすが、クリスティー、この短い物語の中にギュッとミステリーのエッセンスが詰め込まれていて、読後はうなる。
この物語はポワロが生涯に一度だけという失敗談の一つとして語られる話で、こちらも世界的に有名な名探偵、シャーロック・ホームズ物語の「黄色い顔」をパロディしているわけです。ポワロ若かりし日の話で、ポワロはまだベルギー警察隊の一員、警察官なんですね。
ところで、何故この短編か?それは、チョコレート大好きな私が”チョコレート”というタイトルにひかれて、もう一度読みたくなった‥‥というわけです。物語の中では、名探偵ポワロは”ピンク”色のカップでホットショコラを飲んでいます、ココアはポアロの大好物な飲み物です。ココアにピンク、という組み合わせ、クリスティーもかわいい色を世界的に有名な名探偵、エルキュール・ポアロとペアリングをしたと思います。ポワロがピンクのカップで、と、なんかミスマッチにかわいらしい光景を思い浮かべてしまいました。も一つピンク色の物というと、問題のチョコレートの箱の一つがピンク色、として出てきます。これ以上はネタバレになってしまうので触れられませんが。
我が家で飲むココアといったらたいてい、バンホーテンのココアです。バンホーテンというのは本来人名で、オランダ人でココアを発明した人です。ココアというのはカカオペーストというドロドロしたチョコレートの元からココアオバターというオイルを絞りだした後の、固形分を細かく砕いて粉末状にしたものです。オランダの風車がこの固形分を砕くために非常に活躍したといいます。
ポアロはどんなココアを飲んでいたのかな、と思ってしまいます。ポアロはベルギー人なので、きっと、ベルギーの腕のいいショコラティエのチョコレートを使った、--例えば、ピエール・マルコリーニをはじめ、ヴィタメール、レオニダス、ゴディバ、ノイハウス…など--飛びきり美味しいチョコレートで作ったココアに違いない、と想像してしまいます。ヘイスティングスも食わず嫌い、この場合は飲まず嫌いとでも言いましょうか、一度でもポワロのココアを飲んでいたら、きっとホットでとろけるように美味なベルギーチョコレートのココアのとりこになっていたかもしれません。
一方、物語の展開は、甘いココアやチョコレートとは全然かけ離れて甘さのひとかけらもない展開と結末です、でも、あたりまえか、殺人事件の話ですからね、”甘い”話にはなりようがない。
物語では、この短い短編の中で、伏線はみごとに回収され、巧みな描写で読者を見事にミスリードし、衝撃的、かな、そんな結末が用意されていて、クリスティーの才能がいかんなく発揮されている短編であると、お勧めします。
ホットなココアを飲みながら、“うまい”ミステリーを読んでみてはいかがでしょうか?ココアの美味しさと犯人探しにワクワクしながら、ステキなひと時を過ごしましょう。もちろん、これ以外の短編も面白いこと請け合いです!